図書室より 新着本情報(5月)

 

5月の新着本の紹介です。

 

*<個>の誕生 キリスト教教理をつくった人びと  坂口ふみ 岩波書店

アリウス派などを異端とした教義論争の一言一言の意味を追いかけて、論争のただ中から普遍的な洞察をえぐり出そうと試みています。エッセイであり学術論文の体裁をとっていませんが、一方、決して分かりやすい内容ではありません。難しい上に400ページを越える大作なので途中で読むのを断念したくなる場合は、第5章から読むことをお勧めします。キリスト教哲学の専門家ならともかく、一語一句のニュアンスを理解しようとすると著者が一番お伝えしたかった全体像を見失ってしまいます。

中世哲学を近現代哲学との対話という広い土俵へと引っ張りだすというのがこの本の目的です。というわりにはデカルト、カント、フッサールの名前はちょっと出てくるだけです。ギリシア哲学の古典古代の知識人たちによる普遍を中心とする思想がすでに成熟していた時代に、個たる隣人へのラディカルな愛を説くキリスト教は、自らを「普遍に対抗する個の思想」「本質に対抗する存在の思想」として形づくりえたといいます。この教義論争を肯定的にとらえ、近現代の哲学が引き継がれているというのは驚きです。

 

*証し 日本のキリスト者  最相葉月 KADOKAWA

上記の本が大作であるならこの本は超大作です(量的な意味)。1000ページを越える中に100名を越えるカトリック、プロテスタントを含む人の証しです。ジャーナリスト然とした著者の書き方は、決してカトリック教会のお薦めと言える本ではないかもしれません。

証しとは、高らかに信仰を表現することではない、そこには迷いやつまずき、ためらいが含まれています。救いとは9割の疑問と1割の信仰の中にあるのでしょうか。自分が救われたのとは違ういろいろな救い、こんな神さまの救いもあるのかと思いを馳せることができます。

大船教会の聖ヨセフ像を作成した大川昇さんもご登場しています。

 


【図書室係からお知らせ】

ご紹介の通り、今月の2冊は大作です。6月末まで展示後に貸し出しを開始します。貸し出し期間はルールで3週間です。大作で返却が遅延する可能性がありますが、多くの方に読んでいただきたいのでルールを守るようにしてください。試みとして、遅延された方に「返却催促のお電話」をする予定です。